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感染性下痢症(急性下痢)

感染性下痢症(急性の下痢)について

 病原微生物により,便が軟便,泥状,あるいは水様となり,排便回数が1日に3回以上に増加する場合と定義されています.しばしば,嘔気・嘔吐・腹痛・発熱などの症状を伴います.

 下痢の持続期間により,14日以内であるものを『急性下痢』,15日以上を『遷延性下痢』,30日を超えるものを『慢性下痢』に分類されます.

 急性下痢の多くは感染性であり,大半がウイルスによるものと言われています.慢性下痢の原因は 感染症以外のものがほとんどであるようです.

 ウイルスによる症状の出方は『小腸型』と言われ,水様便,嘔吐を伴いやすい,腹痛はあっても軽度,血便は無い ことなどが特徴です.周囲でこのような症状の人が多くみられるようであれば,ウイルス性腸炎(の流行)とみて まず間違いありません.

 血便(血性の下痢),粘血便,強い腹痛,テネスムス(しぶり腹),発熱などが認められる『大腸型』の腸炎では,細菌感染の可能性を考慮する必要があり,便培養,血液培養などの検査を検討します.

 下痢を訴えて来院された患者さんに対して まず行うべきことは重症度のチェックであり,以下のことに留意します.

 ① 脱水の程度

 収縮期血圧が脈拍数を下回っていないか 起立性低血圧(起立により収縮期血圧が20mmHg以上低下)があるか 体重減少・尿量の減少があるか 粘膜の乾燥や皮膚の緊張・張りの低下があるか

 ② 意識障害の有無・程度

 ③ 発熱あるいは低体温

 ④ 排便回数が1日10回以上であるか

 ⑤ 嘔気・嘔吐により 経口摂取不良の状態か

 ⑥ 腹痛の程度 腹部所見

 ⑦ 高齢者 坦癌患者 免疫不全 低栄養 全身状態

 重症と判断された場合は、輸液による全身管理・経時的な観察が必要となります.当クリニックのような無床診療所での管理は困難であり,一般病院レベル以上の医療機関への紹介・受診をお勧めいたします.

● 検査について

 急性の下痢は感染(特にウイルス感染)によるものが多いが,通常は短期間で自然治癒するため,軽症であれば血液検査や便培養検査は行う必要はありません.重症であることが疑われる場合や,嘔気・嘔吐によって経口摂取ができない場合には,血液検査で電解質異常,腎機能障害などがないかを確認します.

 急性下痢で便培養検査が必要となるのは以下の場合です.

・ 重症例(重度の脱水,高熱または低体温,意識障害がある場合)

・ 血性下痢

・ 下痢が7日以上持続する場合(寄生虫の可能性も考慮)

・ 最近3か月以内の抗菌薬服用歴あるいは入院歴(C.difficileの疑い)

・ デイサービスなどの施設利用

・ 免疫機能低下症例(進行したHIV感染を含む)

・ 高齢者(70歳以上)

・ 炎症性腸疾患(IBD)の患者(原病の増悪と感染の鑑別)

・ 食品を扱う職業に従事する者

・ 集団発生を疑う場合

 

 ノロウイルスの検査は 限られた方にしか保険適用が無く、迅速検査は感度が不十分とされていること,また,結果がわかっても治療方針に変わりがないことから基本的に行うことはありません.ただし,食品衛生関係の仕事をしている方や,施設内での集団発生である場合は検査を検討する必要があります.その際には,保健所あるいは検査可能な医療機関で御相談下さい.ノロウイルスの迅速検査で保険適用となるのは、以下の場合です。

 ① 3歳未満の患者

 ② 65歳以上の患者

 ③ 悪性腫瘍の診断が確定している患者

 ④ 臓器移植後の患者 

 ⑤ 抗悪性腫瘍薬,免疫抑制薬または免疫抑制効果のある薬剤を服用中の患者

● 治療について

 脱水および電解質異常を補正することが最も重要です.

 軽症から中等症で経口摂取が可能であれば,経口補水液(ORS:oral rehydration solusion)が有効です.ORSはナトリウムとグルコース(ブドウ糖)を小腸で吸収させ,受動的に水の吸収を促進させることを目的としたもので,極めて生理的な方法です.

 ORSは市販されているものもありますが 自宅でも作成できます.以下を測りまぜあわせます.

 ・ 水(湯冷ましが望ましい) 1リットル

 ・ 砂糖 20~40g (大さじ 2~4杯)

 ・ 塩 3g (小さじ 半分)

 レモン半個程度を搾ると飲みやすくなり,若干カリウムも補給できます.コップ1杯を20~30分かけて飲みます.ORSは冷蔵庫で保存し,その日のうちに消費するよう心掛けてください.

 ORSは下痢の量を減らすものではありません,飲む量に比例して下痢の量が増える可能性もあります.「下痢をするため何も口にしたくない」という方がよくいらっしゃいます.心情はわかりますが,体の衰弱を進めるおそれがあるため 改めていただくしかありません.

 軽症であればスポーツドリンクで代用できますが,ORSに比べナトリウムの濃度が低く糖分が多く含まれています.塩味のクラッカーやバナナを一緒に摂取することが良いとされています.

 前述したように,脱水が高度である場合や経口摂取が困難な場合は輸液(点滴)治療を行う必要があります.

 『止痢薬について』

 下痢の量と回数を減らし症状を軽減する目的で用いることがあります.使用することにより腸管運動は抑制され,病原性微生物が腸管内により長く留まることになります.それにより,腸管障害をきたしたり病脳期間が長くなる可能性があります.

 37℃台の微熱以下で,下痢が血性ではなく,ウイルス感染であることが確かであれば,止痢薬を処方しても良いとされています.しかし,発熱・血性の下痢・粘血便が認められる『大腸型』の腸炎の方や,最近3か月以内に抗菌薬を服用し,C.difficile感染症(CDI)の可能性がある方,炎症性腸疾患(IBD)に罹患している方には原則として処方はできません.

 『抗菌薬について』

 ウイルス性胃腸炎や,軽症から中等症の細菌感染症では抗菌薬は不要とされています.安易な抗菌薬の投与は微生物の耐性化を招くことになり,また,CDIをひきおこす危険性を高めます.

 実際,抗菌薬の投与を考慮すべき細菌感染症は限られており,カンピロバクター腸炎ぐらいです.サルモネラ(非チフス)腸炎は,特殊な場合を除けば通常使用されることはありません.腸管出血性大腸菌(EHEC)感染症に対する抗菌薬の使用については賛否両論あり結論は出ていません.

 抗菌薬を用いる場合は,便培養検査を施行(検体提出)した後に投与することが原則とされております.

 『プロバイオテックス』

 人体に良い影響を与える微生物(善玉菌)のことで,ビフィズス菌や乳酸菌製剤などがあります.

● 経過・予後について

 多くの場合,自然治癒し 数日以内に症状は軽快します.高齢者や基礎疾患のある方,免疫能が低下している方は重症化することがあるため注意が必要です.以下のような場合は再受診していただくことが望まれます.

・ 下痢が7日以上持続している

・ 下痢が血性に変化した

・ 尿の色が変化した  尿量が減少している

・ 体にむくみ(浮腫)が出現している

 カンピロバクター腸炎後のギラン・バレー症候群,EHEC感染症に合併した溶血性尿毒症症候群(HUS), C.difficile感染症が重症化しておきる中毒性巨大結腸症は留意すべき疾患とされています.

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