不眠症
【定義】
適切な時間帯に、寝床で過ごす時間が確保されているにもかかわらず、夜間睡眠の質的低下があり、これによって日中にQOL (生活の質)の低下が見られる状態
【疫学】
日本の一般成人を対象にした調査によると、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒のうち、どれかの不眠があるとの回答が21.4%にみられた。
日本の一般成人を対象とした別の調査では、男性では3.5%、女性では5.4%が、過去1ヶ月内に何らかの睡眠薬を使用しており、高齢になるほど多くなることが明らかにされている。
【鑑別】
不眠症を診断し治療を行う際には、原因を解明することが重要であり、以下の要因について考察する。
・身体的要因 (神経因性膀胱、心不全 など)
・生理学的要因 (騒音、勤務形態 など)
・心理学的要因 (ストレス、不安 など)
・精神学的要因 (うつ、薬物依存、統合失調症 など)
・薬物学的要因 (カフェイン、ステロイド、アルコール など)
身体的な要因について探る際には、付随する症状が何か注意深く問診することが大切である。
以下、一般例を紹介する。
・睡眠中、呼吸に関連した異常あり ⇨ 睡眠時無呼吸症候群・心不全
・睡眠中の異常感覚や不随意運動あり
⇨ レストレスレッグス(むずむず脚)症候群 睡眠時周期性四肢運動障害
・夜間頻尿あり ⇨ 前立腺肥大症 など
・昼夜逆転など睡眠時間帯の異常あり ⇨ 概日リズム睡眠障害 など
【管理・治療の目標】
1)就床しても眠れないことによって起こる日中のQOLの低下、すなわち、疲労感・不調感・集中力低下・気分変調などを改善すること
2)睡眠について正しく理解し、不眠症となりうる生活習慣を改善し、不眠症を予防できるようになること
厚生労働省が作成した睡眠衛生指導の指針あり。以下に示す。
睡眠障害対処 12の指診
1) 睡眠時間は人それぞれ、 日中の眠気で困らなければ十分
季節、年齢でも変化する
2) 刺激物を避け、眠る前には自分なりにリラックスするよう心掛ける
就寝前4時間のカフェイン摂取、就寝前の喫煙は避ける
3) 眠たくなってから床に就く、就寝時間にこだわりすぎない
眠ろうとする意気込みが頭をさえさせ、寝つきを悪くする
4) 同じ時刻に毎日起床
早寝早起きでなく、早起きが早寝に通じる
5) 光の利用でよい睡眠
目が覚めたら日光を取り入れ、体内時計をスイッチオン
6) 規則正しい三度の食事、規則的な運動習慣
朝食は心と体の目覚めに重要 夜食はごく軽めに
運動習慣は熟睡を促進する
7) 昼寝をするなら、15時前の20~30分
長い昼寝はかえってぼんやりのもと
8) 眠りが浅い時は、むしろ積極的に遅寝・早起きに
寝床で長く過ごしすぎると熟睡感が減る
9) 睡眠中の激しいイビキ・呼吸停止や足のびくつき・むずむず感は要注意
専門治療が必要となることあり
10) 十分眠っても日中の眠気が強い時は専門医と相談を
11) 睡眠薬代わりの寝酒は不眠のもと
寝酒は深い睡眠を減らす
12) 睡眠薬は医師の指示で正しく使えば安全
一定時刻に服用し就床 アルコールとは併用しない
【睡眠薬治療】
① ベンゾジアゼピン受容体作動性睡眠薬
睡眠障害のパターン(入眠障害・中途覚醒・熟眠障害)によって使い分ける必要あり。
副作用として以下のものが挙げられる
・筋弛緩作用 起床時の脱力 高齢者では転倒のリスクあり
・抗コリン作用 尿閉 ふらつき
・健忘、せん妄
・離脱症状 不安の増強 反跳性不眠
※ 医師の指示に従って使用する限り、過度に心配する必要はありません。
② 非ベンゾジアゼピン系睡眠薬
ゾルピデム(マイスリー)、エスゾピクロン(ルネスタ)
いずれも超短時間作用型
ベンゾジアゼピン系の薬に比べ、抗不安作用・依存性は少ないと言われている。
しかし、切れ味(効果、即効性)が良すぎるためか、服用継続(再処方)を求める方が多いように見受けられる。
以上紹介した薬は、いわば脳の機能を低下させて眠りに入らせるような薬であり、健忘などの問題が挙げられている。
最近では、自然な眠気を誘発し生理的な眠りを生じさせる薬が開発され普及してきている。
・睡眠中枢を賦活させるメラトニン受容体作動薬 ラメルチオン(ロゼレム)
効果は比較的弱いとされるが、副作用は少ない
・覚醒物質であるオレキシンの受容体への結合を可逆的に阻害する オレキシン受容体拮抗薬
スボレキサント(ベルソムラ)