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かぜ症候群について

かぜ症候群について

【定義】

上気道の非特異的カタル性炎症(上気道の粘膜が炎症をおこし、粘液がしみ出ている状態であるが,特に異常な状態ではないもの)であり,良性経過をたどり,通常自然軽快する疾患群の総称.

【原因微生物】

ウイルスが全体の80~90%を占め,残りを細菌,マイコプラズマ,クラミドフィラが占めている.

 ウイルスの中でもっとも頻度が高いのはライノウイルスで,30~50%を占めると言われている.それ以外には、コロナウイルス,インフルエンザウイルス,パラインフルエンザウイルス,RSウイルス,アデノウイルスなどが比較多くみられるウイルスである.

【3徴: のどの痛み 鼻症状(鼻づまりや鼻汁) 咳】

初期の症状は喉の痛みであり,この症状のみが1~2日続くことが多い.

ごく初期において,のどの痛み以外に症状がなければ,細菌性咽頭炎との区別は困難である.

のどの痛みが軽減してくると,鼻づまりや鼻汁の鼻症状の時期に移行し,これも 1~2日続くことが多い.治癒に近づくと,鼻水や痰は多少膿性に変化することが多いが、自然に薄くなって軽快していく.ちなみに 痰(特にのどにひっかかるようなもの)のほとんどは鼻汁である.

 鼻症状が軽減する 発症から4~5日目には 咳のみが残る. 咳は1~2週間程度 長引くことも珍しくない.

【診断】

上記3つの症状・身体所見から臨床的に行う.

3つの症状が同程度で、いずれも重篤でない場合は『かぜ症候群』と診断される.

細菌感染症は,一度に一臓器(器官)を集中的に侵すものである.病初期から、あるいは経過中に一臓器のみに症状が出た場合、細菌感染症が疑われる.

 ウイルス感染が疑われる場合,原因ウイルスを同定することは、臨床上あまり意義のあることではない.なぜならば,ウイルスがわかったところで行える治療は対症療法のみだからである.しかし,インフルエンザウイルスに関しては,ウイルスに直接的に関与し,増殖を抑える効果のある薬が存在する.インフルエンザが疑わしい場合,鑑別するために行う鼻腔拭い液による迅速抗原検査は どの医療機関でも行う一般的検査となっている.

のどの症状が主である場合,扁桃周囲膿瘍や急性喉頭蓋炎など 重篤な疾患が除外できれば,A群溶連菌咽頭炎を鑑別する必要がある.細菌感染による咽頭炎が疑われる場合,A型溶連菌にのみ抗菌薬の適応がある.当クリニックでは,Centorの診断基準を参照し,溶連菌感染の可能性が高いと判断した際は、咽頭ぬぐい液による迅速抗原試験を施行している.

【予防】

ウイルス感染のほとんどは,手による接触とされている.具体的には,かぜにかかった人が くしゃみや鼻汁を机などの表面にまき散らし,これを他の人が触れ,触れた手で口や鼻を触ることでウイルスが体内に侵入する.咽頭~気道粘膜内に達したウイルスは,20~30分で細胞内に侵入する.よって以下のことが言える.

  手洗い; よく手を洗うことは必要. 

               公共の場では、他人が触るようなものにはできるだけ触らないようにする.

               不用意に口や鼻を触らない(そのためにマスクをする意義はある).

  うがい; よほど頻繁にうがいをしない限り効果なし.

  マスク; 飛散するウイルスの侵入を防ぐ効果は無い.

        かぜをひいた人が、ウイルスの飛散を抑える効果はある.

【治療】

軽症の場合は、自宅療養で自然治癒する.十分な休養、保温・保湿,水分・栄養補給に努める. 

ウイルス感染症そのものを治す薬は無い.そのため,医者が行えるのは対症療法のみである(細菌感染の場合の治療法は,以下に述べる)。つらい症状をおさえながら、身体の免疫がウイルスを退治することをひたする待つわけである.

  ウイルス感染による「かぜ症状」は,その大部分が感染に対する免疫反応であり、ウイルスを排除するために起こっている反応である.対症療法は,患者の苦痛が強くメリットがデメリットを上回る場合の 相対的な適応によってなされる.

 発熱することは生体防御に有利に働く.そのため解熱鎮痛剤は安易に服用すべきではない.

鼻汁・鼻づまり・くしゃみ などの鼻症状に対しては抗ヒスタミン薬や点鼻血管収縮薬などが使用されることがある.

 痰(鼻汁)がある時の咳は,痰を体外に出すための体の反応(反射)である.その際には鎮咳薬(咳止め)は用いないのが原則である.しかし,咳嗽が激しく,不眠や体力消耗につながると判断される場合は薬物治療の対象となる.

  かぜ症候群はほとんどがウイルス感染であるため,抗菌薬を処方する機会は極めて少ない.二次的な細菌感染の徴候がなければ抗菌薬は効果がないし 使用すべきではない.発症後10日以内であれば安易に抗菌薬を使うべきではないとされている.抗菌薬を使用すると、体を守っている常在細菌が耐性化され,長期にわたって存在し続ける.このことは常識として周知されるべきものである.

 

● 抗菌薬が必要となる病状

① 鼻症状が主であるタイプ

 1) 非常に強い片側性の頬部痛・腫脹,発熱がある場合(症状の持続時間は問わない)

 2) 鼻炎症状が7日間以上持続し,かつ 頬部の痛み・圧痛と,膿性鼻汁がある場合

② のどの症状が主であるタイプ

 A群溶連菌咽頭炎にのみ 抗菌薬の適応がある.

 Centorの診断基準(Mclsaac modification: 年齢によるポイントを考慮)で

 2点以上であれば,咽頭ぬぐい液による迅速抗原検査を施行する.

 陽性であれば ペニシリン系の抗菌薬を10日間服用するのがスタンダードなやり方とされている.

   【Centorの診断基準 (Mclsaac modification)】

         38℃以上の発熱                +1点

   圧痛を伴う前頸部リンパ節腫脹   +1点

   白苔を伴う扁桃の発赤       +1点

   咳嗽なし             +1点

   年齢 < 15歳             +1点

   年齢 ≧ 45歳                  -1点

      合計ポイント 4点以上であれば 抗菌治療開始

          1以下ならば 抗菌薬治療の必要なし

③ 咳症状が主であるタイプ

 肺炎をきたしているか判断することが重要.

 熱の出方,臨床症状・所見,喀痰の性状・グラム染色・培養検査,尿抗原検査,レントゲン検査 などにより総合的に判断し診断する.

 突然,悪寒を伴う発熱が生じたり,発熱のパターンが二峰性である場合,また、高齢者や肺に基礎疾患がある人が寝汗をかく場合は,肺炎を強く疑う.

  原因である細菌を同定し,感受性のある抗菌薬を調べて選択することは,感染症治療の根本である.肺炎においても喀痰細菌培養検査を行うことは まさに「王道」であり,当クリニックにおいても可能な限り施行している.

  しかし 報告によると,様々な検査を行っても原因微生物が判明するのは4割以下であり,しかも そのほとんどはウイルスで,細菌(肺炎球菌)が認められるのはたかだか5%とのことである.『肺炎の原因のほとんどは細菌であり,その中で肺炎球菌が最も多い』とされてきた いわば「常識」は見直しを迫られている.

 

  肺炎と診断がついたら 重症度の判別をし,外来での治療で良いか,あるいは 入院による治療が必要か (病院への紹介が必要か) を決定する.その際,CURB65 もしくは A-DROP といった判断基準を用いる.

 

 【CURB-65 スコア】

  各点数 1点  スコアが0~1ならば外来で治療  2であれば入院を考慮

    3以上であれば ICUでの治療が推奨される.

 Confusion(昏迷):      意識レベル低下あり

 Uremia(尿毒症,脱水):    BUN > 20 mg/dl

    Respiratory rate(呼吸数): 呼吸数 ≧ 30 回/分

 Blood pressure (血圧):       収縮期血圧 < 90 mmHg あるいは

                     拡張期血圧 60 mmHg 以下

 65:             年齢 65歳以上

 

 【A-DROP スコア】

 Age (年齢):      男性 70歳以上 女性 75歳以上

 Dehydration (脱水): BUN 21 mg/dl以上 または脱水あり

   Respiration:      SpO2 90%以下 (PaO2 60 Torr以下)

 disOrientation:     意識障害

   blood Pressure(血圧): 収縮期 90 mmHg以下

  軽症:   上記5つの項目のいずれも該当しないもの

  中等症: 上記項目の1つまたは2つを有するもの

  重症:    上記項目の3つを有するもの

  超重症: 上記項目の4つまたは5つを有するもの

   ただし,ショックがあれば 1項目のみでも超重症とする   

 

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