運動療法(生活習慣の改善)
【運動療法】
糖尿病治療ガイド・高血圧診療ガイド・動脈硬化性疾患予防ガイドライン などに記載されている内容をまとめてみました.
原則として,Ⅱ度以下の高血圧で,脳心血管病のない方を対象とします.
脳心血管病合併などの高リスク者は,事前にメディカルチェックを受け,適切な運動負荷量を設定する必要があります.
【運動療法を禁止あるいは制限した方が良い場合】
① 糖尿病の代謝コントロールが極端に悪い場合
(空腹時血糖 250mg/dl 以上 または 尿ケトン体 中等度以上 陽性)
② 増殖前網膜症以上の場合(眼科医と相談する)
③ 腎不全の状態にある場合(専門医の意見を求める)
④ 虚血性心疾患や心肺機能に障害がある場合(専門医の意見を求める)
⑤ 骨・関節疾患がある場合(専門医の意見を求める)
⑥ 急性感染症
⑦ 糖尿病性壊疽
⑧ 高度の糖尿病性自律神経障害
運動には以下のような効果が期待できます
1.急性効果として,ブドウ糖・脂肪酸の利用が促進され血糖値が低下する.
2.慢性効果として,インスリン抵抗性が改善する(効きやすくなる).
3.エネルギー摂取量と消費量のバランスが改善され,減量効果が期待できる.
4.加齢や運動不足による筋萎縮や,骨粗鬆症の予防に有効である.
5.高血圧や脂質異常症の改善に有効である.
6.心肺機能が向上する.
7.運動能力が向上する.
8.爽快感・活動気分など日常生活のQOLを高める効果も期待できる.
『注意すべきこと』
運動で消費するエネルギーは思うほど多くありません.
例えば,体重60kgの人が中等度の運動を30分行っても,消費エネルギーはたかだか 90kcalです.
「運動した日は 心置きなく食事量を増やせる」 と考えるのは誤りです.
- 中等度(3METS) 以上の有酸素運動をを中心に習慣的に行う.
METS (metabolic equivalents) は,安静時代謝の何倍に相当するかを示す活動強度の単位
3METSの運動は,徒歩・軽い筋力トレーニング・バレーボールなど.
有酸素運動とは
歩行・ジョギング・水泳などの全身運動が該当し,心肺機能を高める効果あり.
継続して行うことにより インスリン感受性が増大し,血糖が下がりやすくなる.
- 1分間の心拍数が,50歳未満では 100~120拍(50歳以上では 100拍以下)になるように 体感が「楽である」または「ややきつい」ことが目安.
- 有酸素運動の他に,レジスタンス運動やバランス運動・柔軟運動も実施することが望ましい.
レジスタン運動とは,おもりや抵抗負荷に対して動作を行う運動のこと.
筋肉量を増加し,筋力を増加する効果が期待できる.
例)腹筋・ダンベル・腕立て伏せ・スクワット など
バランス運動は,生活機能の維持・向上に有用.
例) 片足立位保持 ステップ練習 体感バランス運動 など
- 水中歩行は 有酸素運動とレジスタンス運動がミックスされた運動であり,膝にかかる負担が少なく,肥満・糖尿病患者に安全かつ有効である.
- 運動により 糖質と脂肪酸を効率よく燃焼させるためには 20分以上持続することが望ましい.
- 有酸素運動は 中等度で 週に150分か それ以上,週に3回以上行うことを目標にする.運動しない日が 2日間以上続かないようにする.
- レジスタンス運動は,連続しない日程で 週に2~3回行う.禁忌でなければ,有酸素運動・レジスタン運動 両方の運動を行う.
- 歩行運動は 1日 15~30分間 1日2回 歩数 1日約1万歩程度が適当である.
- 運動療法を実施する時間がない日は,階段を登ったり 通勤時に歩行するなど,日常生活の中に運動を取り入れる.
- 運動療法の実施は 食後1時間頃が望ましいとされているが,運動のタイミングに制限のない場合は,実生活の中で実施可能な時間に行っても構わない.
- 一度に強度を上げたり 時間を長くしたりしないで,1週ごとに徐々にペースを上げていく.
- ストレッチなどの準備運動・整理運動を行うよう心がける.
- 運動に適した衣服・ウォーキングシューズを着用する.
- 寒冷および暑熱環境下では 体温調節機能低下に注意する.
• 家事(特に拭き掃除)をしっかりやれば 十分な運動量を得ることができる.